自然科学コースの特色ある授業として

毎年この時期に理科の時間の中で各方面のプロフェッショナルをお招きしています。

去る2月4日の3・4限に生物と物理で特別講座が実施されました。

 

生物では特別講師として 昨年まで県内の高校で教壇に立っておられた赤座久明先生をお招きしました。

CIMG4807_R

赤座先生は、高校で生物を教える一方で、ニホンザルを中心に

日本の野生動物の研究に取り組んでおられる、ほ乳類のスペシャリストです。

 

今回の特別講座では富山県に生息するニホンザルの生態や特徴から最新のニホンザル研究の手法までたくさんのお話をしてくださいました。

 

まずはサルの生態から

これまでに先生が撮りためてこられた、新川地区周辺のニホンザルたちを紹介してくださいました。

大学では立山に生息するネズミについての研究をしておられたそうです。

卒業後も続けようと考えておられたそうですが、教員になってからは時間の都合上、なかなかネズミを研究する時間を確保するのが難しいと考え、日帰りでも調査できるニホンザルに目をつけ、サル研究の世界に入っていかれたそうです。

宇奈月をフィールドに7年かけて、この地域に生息するニホンザルの群れを追っておられたそうです。

それが今から30年程前のお話。ケータイもGPSもなく、見つけた個体に発信器をつける技術もない時代のこと。

トランシーバーを片手に、二手に分かれて群れを追い、自分たちの目で個体識別をしながら記録を取られたとか。

その情熱の素晴らしさ。。。

7年かけて31群の存在を確認し、そのサルたちとの付き合いの中で

過酷な北陸の自然の中で生きる彼らの生態を明らかにしていかれました。

 

北海道以外の地域に生息するニホンザルですが、その分布は各地によって違い

また、その生態や食性も少しずつ異なるそうです。

例えば、ニホンザルの冬の大切なエサであるササですが

北陸ではしっかりと葉っぱの部分まで食べるようですが、関東のほうではササの葉柄だけを食べるため

同じサルでも食痕が異なるようです。

これには環境が関係しているようで雪に覆われ、ほとんど食べるものがなくなるこのあたりではしっかり葉の部分まで食べるしかないようです。

冬は過酷な環境に身を置く北陸のサルたちですが、その分だけ彼らには長い春があるようです。

ニホンザルは雑食ですが、植物食性が強く、植物の葉、芽、草などをよく食べています。

植物は生長すると固く、またアルカロイドという毒性の物質を多く含むようになり、サルにとっては夏もまた厳しい季節となるようです。

 

春のように新芽の柔らかい時期が一番のごちそう期。

北陸のサルたちは冬が厳しい分、残雪により山に春が訪れるのが麓から徐々に・・・

サルたちは麓から雪解けを追って、段々と上っていき、7月頃までの長い春を楽しむようです。

野生のサルたちは緩やかな順位制を持っているようですが、春はみんなに平等においしいものを運んでくれるようです。

 

また、サルの行動と少し前に分岐した私たちヒトの行動も絡めてお話してくださいました。

サルの行動の1つに唇をとがらせてブルブルと震わせる「リップスマキッング」という行動があります。

これは相手に好意を示す行動の一つのようで、相手に敵意がないことを示したり、愛情を示したりするために行う行動のようです。

この行動、実はヒトにも見られるんだとか・・・

小さな子どもがだだをこねる時、唇をうーととがらせている姿。あれも一つのリップスマッキングだそうです!

そのほかにもセルフグルーミングのお話も聞きましたが

そんな行動も併せて、私たちは広義に同じ「サル」なのだそうです!

 

そんなニホンザルのあれこれを教えていただいたところで前半が終了。

休憩を挟んで、後半はDNAによりサルのルーツを探る研究のお話をしてくださいました。

 

現在、富山県でサルが生息するのは県の東部だけだそうです。

昔々、サルも狩猟の対象だったころ、県の西部では食べ尽くされてしまったけれども

深い山の多い東部では、奥山に隠れていたサルたちがいつかのタイミングで戻ってきたのだろうと考えれるそうです。

赤座先生は、ではこのサルたちは一体どこからきたのか?ということに疑問をもち

DNAから母系集団を決定し、そのルーツを探るための研究を始められたそうです。

もともと雌を中心に群れを作るサルの母系集団を探るためには、母系遺伝する「ミトコンドリアDNA」をもちいて

DNAの解析を行うそうです。

 

その1例として大沢野・上市・宇奈月・朝日で捕獲されたニホンザルのDNAを解析した表をみせていただきました。

CIMG4808_R

例のA T G C の塩基配列を読み込んだものです。

このDNAを比較して、変異が少なければ血縁関係が近く、変異が多ければ血縁関係が遠いと考えることができます。

ミトコンドリアDNAのお話からその説明を聞いたあと、上記の表を用いて実際に実際にDNAの変異から調べてみました。

CIMG4813_R

1000bp(ベースペア・塩基対のこと)のうち、大沢野のサルと朝日ののサルでは11の変異。

大沢野と上市のサルでは1の変異が確認されました。

こうやってDNAをたどることでその母集団のルーツをたどることができるようです。

 

これまでの研究から、富山のニホンザルは3000mの山を越えることができず

山に隔てられて血縁関係が分断されているという考察をたてておられてそうです。

しかし、研究を続けるうちに3000mの山を越えた長野県側や新潟の親知らず付近でも朝日と同タイプのDNAが採取されたことから

山は越えなかったけれども、海岸沿いに新潟県に進出し、長野県まで拡大していったのではないかと考えられるそうです。

 

研究の途中、得られた結果から考察されることも、研究が進み新しい発見があれば、最初の仮説と当然変わることもある。

結果によって見えてくるものは変わってくることもあるが、失敗ではないからその都度その都度 修正していけばよいのだと

お話されていました。

 

 

さて、お話の終わりに

「温泉に入ったニホンザル」のお話をしてくださいました。

ご存じの方も多いかも知れませんが、長野県の地獄谷には保護および観察を目的とした野猿公苑があります。

ここのサルたちは世界で唯一「温泉に入るサル」として知られており、

_W9P1465 IMG_4943

〔地獄谷野猿公苑HPよりhttp://www.jigokudani-yaenkoen.co.jp/japanese/html/onsenmonkey.htm〕

人気の観光スポットとなっているが、近年では海外からの観光客も多い。

 

世界唯一ということだけあって、もともと野生のサルは温泉に入る習慣がありません。

ではいったいどうしたのでしょう?

実は、投げ込まれたエサを取ろうと温泉に子ザルが落ちたことがことの始まりだったようです。

身体の大きな雄ザルは真っ先にエサにありつくことができますが

子ザルや身体の小さな雌は、雄が満足するまでなかなかエサにありつくことができません。

その雄ザルたちが見向きもしない、たまたま温泉の中にに落ちたエサ。お腹のすいた子ザルたちはそれを頑張ってとるしかない。

勇気を出して、温泉の中のエサに手を伸ばした子ザルはそのままドボン。まんまと落っこちてしまいましたが

しっかりエサを手にすることができました。

それを見ていた飼育員さんが、翌日、わざと温泉の中にエサを落としてみると

またもや勇気を出した子ザルが温泉のなかのエサに。

これを繰り返すうちに、仲間の子ザルや周りの雌ザルたちも温泉の中のエサをとりに入るように。

そのうち、この極寒の地獄谷において温泉は心地よいと気づき始め、エサがなくとも温泉に入るようになったのだとか。

その中で、最後まで大きな雄ザル達は温泉に入ろうとしなかったそうです。

CIMG4817_R

赤座先生はこのサルの話をもとに

「新しい文化を作り、取り入れるのはいつでもプアでハングリーな子ザルたち。お金も地位もしがらみもない。だからこそ思い切ったことができるんです。最後は勇気を持って温泉のリンゴを取りに行くサルになってほしいんです。若い人たちに期待します!頑張って下さい!」

と暖かく力強いエールをくださいました。

 

DNAのお話もあり、難しいそうな気もしたのですが

さすが、長年たくさんの生徒に生物を教えてこられた赤座先生ですから、非常にわかりやすくかみ砕いてお話してくださいました。

また、たくさんのニホンザルにまつわる楽しいエピソードやウィットに富んだ話術でみんな引き込まれていました。

 

これから道ばたで出会うサルはみんな、赤座先生の顔なじみですから

ちょっと親近感が湧きそうですね。

赤座先生、ありがとうございました。